「そもそも楽器を弾くということは、体にとって異常な行動なんです。」
そう話すのは、八王子音楽教室『ラクスタレッスン』ベース講師の岡本のはら先生です。
皆さんは普段楽器を弾くときの姿勢や奏法をどれくらい気を付けているでしょうか?
当たり前のように楽器を弾いている方でも、ある時急に謎の痛みに襲われたり、動きが悪くなったりすることがあります。
その結果、有名な症状でいったら「腱鞘炎」などですが、「ジストニア」という、原因不明の珍しい症状に陥ってしまうこともあります。
今回は「うまくなるための奏法やテクニック」という話ではなく、「長く音楽を続けるために、体を壊さないために必要なこと」という音楽のある生活を継続するにあたり必要不可欠なお話を、岡本のはら先生にベーシスト目線でお話ししていただきました。
具体的なアクションプランは、個人差があるため細かくお伝えはできませんが、意識などを中心としたトピックを紹介させていただきます。
特に今ストレスなく楽器をやられている方も一度は読んでいただきたい記事になっております。
本当に音楽が好きで、睡眠や食事を忘れるくらい楽器を弾き続けてしまうという方がいらっしゃいます。
プロフェッショナルな活動をしている方なら「仕事」という意味も加わり、ちょっとしたストレスなら無視して練習をし続けるという方も少なくありません。
音楽においてのストレスとはなんでしょうか?それは、楽器を弾くときの姿勢であったり、技術向上のための身体的負荷だったりとさまざまですが、そもそも「楽器を弾く」という行為自体が日常ない動きである時点で異常な行為、ストレスに繋がることもあります。
多くの方はそこまで楽器を弾く際のストレスは気にしません。いつまで楽器を弾き続けても何の問題のない方がほとんどです。
特に音楽初心者は楽器を弾くという特別感から、ストレスよりむしろ楽しさの方が勝ります。
それは非常に有意義なことですが、その小さなストレスを無視して弾き続けたらどうなるでしょうか?
岡本のはら先生はそれを続けたことにより、右手の人差し指が動かなくなる「ジストニア」という症状に悩まされました。
ジストニアとは?
ジストニアとは、自分では制御できない筋肉の収縮がおこる病気のことです。前触れもなく突然起こるこの症状は、普段から反復運動をしている方が発症しやすくなると言われております。(実は校長も左足が動かなくなる同じ症状を経験しました。)
有名なものだと『書痙』というものがあり、これは常に字を書き続けるお仕事などをされている方が発症しやすいようですね。とはいうものの具体的な原因は解明されていません。
のはら先生の場合、夢中でベースの反復練習をしてしまったことが原因である時突然右手の人差し指が動かなくなってしまいました。
校長の私も経験があるためその時の苦しさは分かるつもりですが、その時の体験を一言でいうと「全力でやってきたことをいきなり奪われた感覚」という感じでしょうか。
これまで当たり前のようにできていた動き、培ってきた技術がいきなりできなくなってしまいます。
料理人であれば、包丁が持てなくなる。デザイナーであれば、色が分からなくなるというような感覚です。
プロとして仕事に支障が出るということも歯痒い経験でした。
医学的にも推測ですが、精神的なストレスも原因の一つではと言われております。
音楽活動におけるジストニアの発症例は、全体的に見たら少ない方ではあります。だからと言って、これから音楽を始めるつもりの方が必ずしもこの様な症状にならないという保証はどこにもありません。
腱鞘炎などの予防も含め、そのためのはら先生は技術だけでなくそういったフィジカルな部分も徹底して生徒に教えたいと言います。
教則本は鵜呑みにしない
昨今、多くの楽器初心者向けの教則本がたくさんあります。素晴らしい内容のものももちろんありますが、教則本の弱点はここ、「多くの人に向けている」という点です。
体の作りは人それぞれです。そのため、奏法も千差万別で、その人に合ったやり方を見つけることが重要になってきます。一つのやり方が万人に合うとは限りませんよね。
「教則本にそう書いてあったから」という思考は危険だとのはら先生は言います。まず「そういうやり方もあるんだー」程度にとどめておき、試しにやってみる程度にしましょう。
先生であっても全員フィジカルな知識があるわけではない
冒頭で述べたように、ほとんどの方がストレスなく楽器を続けてしまいます。なので、楽器経験の豊富な先生だからと言って生徒のフィジカルな面にコミットしてくれるとは限りません。
ここが今の音楽業界に足りないことの一つだと私は感じています。
少数ではありますが、やはりフィジカルな知識がない先生の言ったことを愚直にやり続けてしまい、その結果体を壊してしまうという生徒さんもいらっしゃるようです。
その生徒の体の動かし方や、癖や傾向を観察し、その人に合った奏法を教えられる先生の能力も必要になってきますが、現状なかなかそこまで詳しく教えてくれる先生は少ない印象です。
では、のはら先生はレッスン時にどのように教えてくださるのでしょう?
とにかくまずはゆっくり、確実に
前回ののはら先生のレッスン動画でもご紹介したようなベースの代表的な基礎練習などを題材に、まずは曲に触れる前に一つ一つの動きをゆっくりやってもらいたいと言います。
これは非常に退屈な練習に見えてしまうかもしれませんが、ここをクリアできないとやはり体を壊すことに繋がってしまう危険があります。
独学者さんは特に基礎練習を疎かにし、すぐに曲を演奏してしまう方がほとんどです。
曲を演奏することはとても楽しく、夢中で続けてしまいますよね。その結果、無理な動きによるストレスにも気付きづらくなる…これは避けたいところです。
立って弾くのか?座って弾くのか?
これら以外にも、ストラップの調整の仕方、立って弾く場合、座って弾く場合などにも注目するそうです。
基本的には奏者が好きなスタイルで演奏してもらって構いませんが、立って弾く場合はストラップで肩にプレッシャーがかかっている状態であることを認識してください。
少しでも肩や背中、腰などに違和感や疲労を感じたらベースをスタンドに置きましょう。
この際、ストレッチは欠かさず行いましょう。少ししつこくやり過ぎかな?というくらいでちょうどいいのかもしれません。
~さいごに~ 長く音楽を楽しんでほしいから
なぜのはら先生はそこまで口うるさく奏法にこだわるのでしょうか?
演奏動画を見るとわかるように現在右手に関してのはら先生は、中指だけで演奏をします。ジストニアの経験から来た彼女オリジナルの奏法です。
現在のこの奏法になるまでに、彼女は多くの試行錯誤を繰り返えしてきました。ジストニアになる手前までやっていたほぼすべての動きをリセットし、もう一度一からやり直さなければいけません。
心から音楽を楽しむという面でも、仕事の面でも、その試行錯誤の期間は苦しい期間であったことは間違いないとのことでした。
もちろんその経験から現在のように、生徒さんにフィジカルな面をしっかりとアドバイスできるようにはなったり、その経験があったから得たものもありましたが、やはりジストニアは経験はしたくはないものです。
音楽が好きであるからこそ無理をしてやり続けた結果、身体的、精神的ストレスが蓄積され起こったジストニア。
あるいは腱鞘炎なども含め、多くの人に心の底から楽しんでほしいからまずは今できる予防対策を徹底して生徒に教えたいと彼女は言います。
「私のような経験をしてほしくない。だからこそ口うるさく、丁寧に奏法を教える。」
神経質になるつもりはありませんが、今できる体や心への配慮を常に行わなければ、楽しいはずの音楽が苦痛で続けられなくなってしまいます。
絶対にそうはなってほしくない。口うるさく言うのは、すべて生徒さんに対するのはら先生の優しさからなのかもしれません。
八王子の音楽レッスン「ラクスタレッスン」は3か月で成果を出すために、いつもより頑張らなければいけないプログラムを用意しております。
その間、当然楽器から来る身体的ストレスが発生します。
このある種ストイックなこのレッスンプログラムによって、生徒さんが体を壊すことはあってはならない。なので、のはら先生のようにフィジカルな面に全力でコミットできる講師が必要でした。
ご検討をされている方は、ぜひ安心していただければと思います。
そして、これからも健康で、心から音楽を楽しんでいきたいという方には、私は岡本のはら先生との3か月間のレッスンを強くおすすめしたいと思います。
インタビュー:ラクスタレッスン校長 鈴木悠平